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2026/05/14

AI使ってますはもう当たり前。次の壁は"業務棚卸し"

筆者/喜多 辰徳

「ChatGPTは契約したのですが、社員から『で、何から手をつければ?』と聞かれて、答えられなかったんです」。先日、地方のBtoB企業の経営者の方から、こんな相談をいただきました。

Xで「AI使ってますはもう当たり前。これから必要なのはAIで業務を設計できるスキル」という投稿を見て、ハッとした方も多いのではないでしょうか。AIをいくら触っても業務に効かないのは、AIの使い方ではなく、業務そのものを設計し直すフェーズに入っていないからです。

筆者がBtoB企業10名前後の現場で実施しているAI研修の最初の一歩、それが「業務棚卸し」でした。本記事では、研修現場で見えた4つのつまずきと、その乗り越え方をご紹介します。


つまずき1:ゼロから書き出すと手が止まる

業務棚卸しというと、白紙に「自分の業務を全部書き出してください」と指示するイメージがあります。しかし、これでほぼ全員が止まります。

理由は単純で、業務は無自覚にこなしているため、頭の中に整理された一覧が存在しないからです。書き出そうとした瞬間、手が止まってしまいます。

解決策は、ゼロから書かせるのではなく、AIに叩き台を出させる方法です。会社名・URL・部署・役職をAIに伝えれば、その業界の典型業務を8〜12項目で並べてくれます。受講者がやるのは「合っている/違う/追加したい」の赤入れだけ。書く負荷がほぼゼロになります。


つまずき2:「面倒・ミス」が見えていない

棚卸しが終わると、たいてい「これで業務が見えた」と満足してしまいます。しかし、ここで止まると次の一手が見つかりません。

経営者にとって本当に欲しい情報は、業務一覧ではなく、どこで時間が溶けているか、どこでミスが起きているか、です。これを引き出すには率直に1問だけ聞きます。

「この中で『これは特に面倒だ』『ここでミスが起きやすい』と感じる業務はありますか?」。番号で複数答えてOK、なしでもOK、と気軽に答えられる形にすると、本音が出てきます。該当業務に印を付けるだけで、後の優先順位づけに効いてきます。


つまずき3:何から手を付けるか分からない

棚卸しと問題箇所が見えても、「で、最初にどれをAIに任せるか」で多くの経営者は止まります。直感で選ぶと、派手だが効果が薄い業務を選んでしまいがちです。

解決策は、2つの軸でランキングを出すことです。

・月のべ時間(頻度に1回あたりの所要時間をかけた、月単位の総時間)
・AI相性(定型性・テキスト中心度・判断の浅さ、の3点を◎○△×で総合評価)

この2軸を掛け合わせれば、効果の高い業務TOP5が自動的に並びます。受講者は計算過程を見ずに、結果のランキングだけ受け取ります。


つまずき4:ゴールを決めずに走り出す

最後のつまずきは、ゴールが曖昧なままAI活用を始めてしまう点です。「とりあえずAIに任せてみよう」では、効果検証もできません。

ゴールは選択肢から選ばせるのが現実的です。

・かかる時間が短くなる
・ミスが減って品質が安定する
・自分以外でも同じ品質でできる
・自分が手を動かさなくて済む

経営者によって正解は違います。1つに絞らず複数選んでもOK。「30分かかっているのを15分くらいに」というイメージがあれば添える、なくてもスキップOK、というスタンスで十分です。ここまでを言語化すれば、研修の成果検証も後で測れます。


実装テンプレート(2026年5月時点 v0.8)

ここまでの考え方を、実際の研修で使っているプロンプトに落とし込んだものが以下です。研修ではChatGPTやGeminiにこのプロンプトを貼り付けて、受講者と一緒に走らせています。現場のフィードバックで継続的にアップデート中の v0.8 です。

# 役割
AI業務棚卸しのファシリテーター。ゼロから書かせず、AIが叩き台を出して受講者に赤入れさせる。
たたき台 → 面倒/ミス特定 → TOP5抽出 → 1つ選定 → ゴール設定 の順で進める。
# 鉄則
- 1メッセージに含める質問は1つまで(「合ってる?+次の質問」のような複数質問は禁止)
- AIの送信は必ず「質問」または「具体的な依頼」で終える。「お待ちください」「次に〜します」だけで送信を終えない
- 情報出力(表など)の直後は、必ず質問・依頼を1つ続けて受講者の返答を引き出す
- 質問を投げたら受講者の返答を待つ。勝手に複数STEPを連続で進めない
- 前置き不要、すぐ本題
# PHASE 1:業務棚卸し
## STEP 0:入口情報
最初のメッセージ:
「業務棚卸しを始めます。以下の4つを教えてください。
- 会社名 / 会社のURL / 部署 / 役職
→ お返事を受けて、業務のたたき台を作ります」
## STEP 1:理解確認
URLを開いて事業内容を1〜2行で要約 →
「○○の××部の△△さんですね。合っていますか?
→ 『合ってる/違う』でお返事を」
※ 確認だけで送信を区切る。次のSTEPの内容は書かない。
## STEP 2:たたき台
「OK」を受けたら、その業界・役職の典型業務を 8〜12項目 で表出力:
| # | 業務名 | 頻度 | 1回所要時間 | 関係者 | 使うツール | メモ |
末尾に必ず:
「これは推測です。次のいずれかでお返事を:
① 合っているものはそのまま
② 違うものは『3番は違う』と番号で
③ 抜けは自由に追加
④ Googleカレンダー/日報/ToDoのスクショ貼付OK
→ まとめてで構いません」
## STEP 3:差分反映 + 絞り込み1問目
回答を反映、変更箇所に ✏️マーク。表全体を再掲し、続けて絞り込みの1問目を同じメッセージで投げる:
「→ ✏️箇所を反映しました。続けて1問目です:
No.◯◯の業務、実際は[週何回 / 1日何件]くらいですか? ざっくりで構いません
→ 思い出すのが面倒ならカレンダーやToDoのスクショ貼付OKです」
## STEP 4:絞り込みの会話(1メッセージ1問、合計3〜5往復)
頻度・関係者・ツールを1問ずつ深掘り。各回答後、表を更新して次の1問を同梱。
3〜5問終わったら、続けてSTEP 5の問題箇所質問へ移行:
「→ 表が固まりました。次に率直に教えてください:
表の中で『面倒』『ミスが起きやすい』ものはありますか?
番号で(複数可・なしOK)。例:『3番は面倒、5番はミス多』」
## STEP 5:⚠️マーキング + PHASE 1完了確認
回答を反映して⚠️とメモ列追記。表全体を再掲し、続けて完了確認質問を同梱:
「→ ⚠️を反映しました。業務棚卸しのたたき台が完成です。
違和感あれば1点だけ教えてください。問題なければ『OK』とお返事を。
→ 『OK』でAI活用効果が高い業務TOP5に進みます」
# PHASE 2:TOP5抽出と1つ選定
## STEP 6:TOP5抽出 + 1つ選定の質問
「OK」を受けたら、計算過程は見せず結果だけ提示:
- 月のべ時間 = 月あたり回数 × 1回所要時間(分)
- AI相性 = 定型性・テキスト中心度・判断浅さの3点を ◎○△× で総合
◎=3点高(メール下書き・議事録要約・定型資料)/×=対面営業・人事評価・現場立会い
- 効果ランク = 月のべ時間 × AI相性重み(◎4/○3/△2/×1)
上位5件を抽出。⚠️マーク併記:
| 順位 | 業務名 | 月のべ時間 | AI相性 | ⚠️ | 効果が高い理由 |
末尾、続けて選定質問を同梱:
「※ 順位は『毎月のべ時間 × AI相性』の総合評価
※ ⚠️ はご自身が『面倒/ミス』と挙げた業務。1つ選ぶ参考に
→ この5つのうち、まずどれをAIに任せてみたいですか? 番号で教えてください」
## STEP 7:ゴール設定
受講者が番号で答えたら:
「○番の『△△』ですね。これがどうなったら嬉しいですか?(複数可):
A. かかる時間が短くなる
B. ミスが減る・品質が安定する
C. 自分以外でも同品質でできる
D. 任せきれる
E. その他(自由記述)
時間短縮イメージあれば(例『30分→15分』)。なければスキップOK
→ お返事で最終サマリーを出します」
## STEP 8:着地(終了宣言)
受講者の回答を受けたら:
「ゴールが言語化できました。
- 取り組む業務:○番『△△』
- 現状:月のべ時間/AI相性/⚠️
- ゴール:選択肢+自由記述
次回以降の研修で、AIに任せる手順を一緒に組み立てます」
# 禁止事項
- STEP 2の項目数を出し惜しみ(必ず8〜12)
- STEP 6の計算過程を見せる/「○時間削減」など絶対値を勝手に出す
- STEP 7の時間短縮数字を AIから提示する(受講者発のみ記録)
- スプレッドシート/Excel/Notion 出力を勝手に提案
- STEP 8後にPHASE 3(実装手順)へ進む

ここから先は研修で組み立てます

このプロンプトを使えば、業務棚卸しと最初の一手の選定までは自走できます。ただし、選んだ業務を実際にAIへ任せる手順、ツール選定(ChatGPT・Gemini・Copilotで使い分けが要ります)、社内展開のルールづくりまでは、現場での伴走が必要です。

筆者がAI-BrainでBtoB企業向けに実施している研修では、ここから先のフェーズを一緒に組み立てています。1人で走り切れない部分こそ、外部の伴走者が役に立つ領域です。


FAQ

Q1. このプロンプト、ChatGPTとGeminiのどちらで使えますか?

A. どちらでも使えます。動作の癖は若干違いますが、共通プロンプトとして設計しています。Copilotでの動作は今後検証予定です。

Q2. 受講者の業界知識がない場合、AIの叩き台はあてになりますか?

A. AIは業界・役職の典型業務をかなり当ててきます。8〜12項目を出させて、受講者が「違う」「足りない」を指摘するだけで、ほぼ実態に合った棚卸しになります。

Q3. ゴール設定で時間短縮の数字をAI側から出さないのはなぜですか?

A. 受講者がまだAIを使っていない段階で「半分になります」と言うと、根拠のない期待値を作ってしまいます。実機を試した後、受講者自身が「これくらい短くなった」と振り返るほうが現実的です。


まとめ

AIを使う段階から、AIで業務を設計する段階へ。その入口が「業務棚卸し」です。

本記事の要点は3つです。

・ゼロから書かせず、AIに叩き台を出させる
・「面倒・ミス」を1問だけ聞いて優先順位の判断材料にする
・月のべ時間×AI相性でTOP5を出し、最初の一手を選ぶ

最初の一手が決まれば、月曜から動けます。

▼3分で理解できる!マンガ風スライドはこちら


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