「AIで浮いた時間、何に使っていますか?」
こう聞かれて、すぐに答えられる経営者は多くないはずです。資料づくりやメールの下書きは確かに速くなりました。それなのに、売上の数字は導入前とほとんど変わっていません。筆者自身も、同じ状態を経験しました。
原因はAIの性能ではなく、浮いた時間の使い道と、追いかける目標を決めていないことにあります。この記事では、国内の調査、DeNAの南場智子社長の発言、筆者の経験をもとに、浮いた時間が消えてしまう理由と、売上に近い仕事へ振り向ける方法を紹介します。
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AIで仕事は速くなったのに、売上は増えていない
効率化の効果は9割超、売上・利益は3.9%
IPA(情報処理推進機構)が2026年7月に公表した国内企業の調査「DX動向2026」に、この問題がはっきり表れています。AI導入による具体的な効果を尋ねた設問で、もっとも多かった回答は「業務が効率化したり迅速化した」の91.6%でした。
一方で「売上や利益が向上した」は3.9%、「対象となる顧客が拡大した」は2.7%にとどまっています。IPA自身も、企業価値の創出に関連する効果を挙げた企業は数%台だとまとめています。

AIの使い道は、業務の効率化が中心
同じ調査でAIの利用用途を尋ねると、「文書・音声の要約・翻訳・校正」が82.5%、「文書・レポートの作成(社内・社外)」が80.5%と上位を占めました。これに対して「自社製品・サービスの高度化」は10.9%です。
AIは業務の効率化には使われていても、商品やサービスを高める用途にはまだあまり使われていません。
DeNAの南場社長も「思ったほどまだできていない」と語った
2025年2月の宣言
DeNAの南場智子社長兼CEO(2026年6月就任)は、会長を務めていた2025年2月の講演で、AIに全面的に賭ける「AIオールイン」の方針を打ち出しました。約3,000人で運営している今の事業を半分の人員で成長させ、残りの半分で新規事業を立ち上げるという内容です。
1年後の振り返り
同じく会長時代の2026年3月の講演で、南場社長はこの1年を振り返っています。効率化は進んだものの、社員は浮いた時間に、やりたくてもできなかった仕事を自分で詰め込んでいきました。その結果、新規事業への人の移動は「思ったほどまだできていない」と率直に語っています。
南場社長によると、人が浮いたと自分から申し出る社員はいません。空いた分だけ、次の仕事を取りに行ってしまうからです。そこで打ち出したのが、時間や人が浮くのを待たずに先に動かすという方針でした。
最新の打ち手は「人を先に動かす」仕組み
DeNAは2026年7月から、新規事業の立ち上げ(0→1)や事業の成長(Growth)を担う組織の整備を進めています。9月には新規事業づくりに特化した子会社「BAKERU」の設立を発表しました。母体となった社内部署では、すでに10件ほどの案件が動いているとしています。同じ月には挑戦支援プログラム「DeNA Startup Loop」を打ち出し、その第一弾として、新規事業の成長段階に応じてチームにインセンティブを支給する制度を10月から始めます。
AIへのオールインを宣言した会社でさえ、放っておくと浮いた時間は思ったほど新規事業に向かいませんでした。だからこそ、組織と制度で先に人を動かしているのです。
浮いた時間が消える3つの理由
真面目な人ほど、手が回らなかった仕事で埋めてしまう
1つ目は、南場社長が語ったのと同じ構図です。時間が空くと、後回しにしていた整理や確認が入り込みます。どれも必要な仕事に見えるので、誰も違和感を持ちません。
AIとのやり取りに時間を吸われる
2つ目は、AIを使うこと自体に時間がかかる点です。パーソル総合研究所が2026年7月に公表した調査では、生成AIを業務で使う人の49.7%が、課題として「欲しい回答を得るために、指示を何度も出し直すことがある」を挙げました。同研究所は、タスクが速く終わる個人の実感と、組織全体の生産性や価値づくりの間には深い断絶があると指摘しています。
何に使うかを、誰も決めていない
3つ目が、いちばん大きな理由です。三菱総合研究所は2026年9月の提言で、AIで時間を生むこと自体は目的ではないと述べています。新しい価値づくりや顧客との接点の強化など、自社が高めたい価値を先に決め、そこから逆算して時間を生み出すべきだという考え方です。

「浮いてから考える」をやめて「先に予約する」
浮いた時間を3つの箱に分ける
まず、時間の使い道を3つの箱に分けて考えます。
・守る:休む、残業を減らすなど、体と暮らしのために使います
・磨く:今の仕事の質や速さを上げるために使います
・攻める:営業件数を増やす、商品の付加価値を高める、発信するなど、売上に近い仕事に使います

休むことも大切な使い道です。問題は、どの箱にも入れないまま時間が溶けることにあります。
攻める時間を、先に予定表へ入れる
おすすめは、時間が浮くのを待たずに、攻める時間を先に予定表へ入れる方法です。毎週決まった曜日の午後などを押さえ、会議や作業を入れないようにします。

南場社長が組織で行った「先に動かす」を、自分の予定表で行うイメージです。予定が先に入っていれば、その時間を空けるために、AIに任せられる作業を自然と探すようになります。
KPIを「削減時間」から「営業件数」と「付加価値」へ
筆者も「時間は減ったのに売上が変わらない」を経験した
筆者自身も、AIで作業の時間は減ったのに、売上が変わらない時期がありました。流れが変わったのは、意識を「時間を減らすこと」から「営業件数を増やすこと」に切り替えてからです。そこから少しずつ、売上につながっていきました。
振り返ると、見直すべきだったのは追いかける数字でした。業務時間の削減をKPI(目標として追いかける数字)にすると、時間が減った時点で目標は達成されてしまいます。浮いた時間を何に使うかまでは、その数字は問いかけてくれません。
KPIは「営業件数」と「付加価値」の2つに絞る
AIの効果は、削減した時間ではなく、次の2つで測ることをおすすめします。
・営業件数:お客さんに会った、提案した、声をかけた回数を数えます
・付加価値:商品やサービスの中身を良くして、選ばれる理由や単価を高められたかを見ます

月に1回この2つを見返すだけで、浮いた時間が売上に向かっているかどうかがわかります。
Gartnerの予測:削減で終わる会社は追い越される
米調査会社のGartnerは2026年9月、AIによる生産性の向上をコスト削減として回収することを優先する組織の75%が、2027年までに、その成果を積極的に再投資する競合に追い越されるとの予測を示しました。浮いた時間を削減だけで終わらせず、一部でも攻めに回すことが、これからの差になります。

個人店・個人事業ならこう置き換える
考え方は、個人店や個人事業でも変わりません。
・飲食店:発注や仕込み表づくりをAIで短くし、常連さんとの会話や新メニューの試作に回します
・営業や士業:見積書や報告書の下書きをAIに任せ、お客さんとの面談を1件増やします
・宿泊や観光:よくある問い合わせへの返信をAIに下書きさせ、周りのお店との連携や発信に回します
ポイントは、攻める時間にやることを具体的な行動で決めることです。「毎週火曜の午後に、常連さん3人に新メニューの感想を聞く」のように、誰に何をするかまで書き込みます。
予定表をAIに見せて、時間の行き先を確かめる
先に予約する前に、今の時間の行き先を確かめておきましょう。ChatGPT・Claude・Geminiなど、ふだん使っているAIに先週1週間の予定を貼り、次のプロンプトで仕分けてもらいます。
あなたは経営者の時間の使い方を整理するアシスタントです。
下に、私の先週1週間の予定を貼ります。次の手順で整理してください。
1. 予定を1つずつ、次の4つのどれかに仕分けてください。
守る:休む、残業を減らすなど、体と暮らしのための時間
磨く:今の仕事の質や速さを上げる時間(資料づくり、整理、確認など)
攻める:売上に近い時間(お客さんへの営業や提案、商品やサービスの付加価値を高める試作や改良、発信)
その他:どれにも当てはまらない時間
2. 4つそれぞれの合計時間と、全体に占める割合を表にしてください。
3. 「攻める」に入った予定のうち、お客さんと直接会った・話した予定の件数を数えてください。
4. 「磨く」と「その他」の中から、AIに任せられそうな作業を3つ挙げてください。
5. 来週の予定表に、先に「攻める時間」として押さえるべき枠を2つ提案してください。曜日、時間帯、その時間にやることをセットで示してください。
【先週の予定】
(ここにカレンダーの予定を貼り付け)お客さんの名前や金額は、貼る前に「A社」「B様」などに置き換えておきましょう。
よくある質問
Q. 浮いた時間を休むのに使ってはいけませんか?
A. 休むことも大切な使い道です。大事なのは、休む時間も含めて使い道を先に決めておくことです。
Q. ひとりで経営していても意味はありますか?
A. むしろひとりの方が始めやすいです。自分の予定表に攻める時間を入れ、営業件数を数えるだけで始められます。
Q. そもそもAIで時間が浮いた実感がありません。
A. まず先週の予定表を仕分けてみてください。時間が浮いていないならAIに任せる作業の洗い出しから、浮いた時間が別の作業に吸われているなら攻める時間の予約から始めましょう。
Q. 社員に「浮いた時間で新しいことを」と言っても動きません。
A. 南場社長の話にあるとおり、浮いた時間を自分から差し出す人はほとんどいません。経営側が攻める時間と担当を先に決め、評価する数字も営業件数や付加価値に変えることが近道です。南場社長は会長時代の2026年3月の講演で、人事部門の発案として、管理職の評価に「人材の輩出」(部下を新規事業などへ送り出すこと)を入れる方向だと語っています。
まとめ
AIを導入しても、浮いた時間の使い道を決めなければ、時間は目の前の作業に吸い込まれていきます。
・効率化の効果は出ていても、売上や利益につながった企業はまだ少数にとどまっています
・DeNAでも、浮いた人と時間は放っておくと、思ったほど新規事業に向かいませんでした
・攻める時間を先に予定表へ入れ、KPIを削減時間から営業件数と付加価値に切り替えることが近道です
まずは先週の予定表をAIに仕分けてもらい、来週の攻める時間を1つ押さえてみてください。
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